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バニャイアの直前のタイヤ変更は功を奏したのか?:MotoGP最終戦ソリダリティGP【土曜日】スプリント

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フランチェスコ・バニャイア©Eri Ito

 ソリダリティGP・オブ・バレンシアの土曜日スプリントレースは、ホルヘ・マルティン(プリマ・プラマック・レーシング)のチャンピオン獲得がかかるレースとなった。マルティンは前戦マレーシアGPを終えた時点でランキング2番手のフランチェスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)に対し、24ポイントの差を築いていた。

 現在のMotoGPは土曜日のスプリントレースと日曜日の決勝レースがあるため、スプリントレースでマルティンがチャンピオンを獲得する可能性があるといっても、バニャイアの順位如何でもある。端的に言えば、マルティンはバニャイアの前でゴールすれば、タイトルが決まる、という状況だった。

 このスプリントレースについて、タイヤ選択に注目してみよう。

 今大会は、当初、スペイン・バレンシアのリカルド・トルモ・サーキットで行われる予定だった。しかし10月末、スペイン東部のバレンシア地方を襲った洪水により、開催地がバルセロナ-カタルーニャ・サーキットに変更となった。バルセロナ-カタルーニャ・サーキットでは、5月下旬に第6戦カタルーニャGPが開催されている。つまり、今季2度目の開催である。

 開催時期が異なり気温差が大きいため、ミシュランは今大会にフロントに4種のコンパウンド(ソフト、ミディアム、ハード2種)、リアに3種のコンパウンドを用意した。なお、通常は、フロントに3種、リアに2種である。

 今回用意されたのは、フロントのソフトとハードの一つは右側が強化されたアシンメトリー、ミディアムとハードの一つは左右対称(シンメトリ-)で、リアはソフト、ミディアム、ハードの全3種がアシンメトリーとなっている。

 通常よりもタイヤの選択肢が多かったが、多くのライダーがミシュランの仕事ぶりについて「素晴らしい」と称賛していた。バニャイアもその一人である。そのなかでバニャイアは、初日を終えて「みんなが試していたフロントのハードを試しそこねた」と、言及していた。懸念、というほどでもないようだったが、マルコ・ベツェッキ(プルタミナ・エンデューロVR46・MotoGPレーシングチーム)やアレイシ・エスパルガロ(アプリリア・レーシング)がフロントにハードを履いて好タイムだったため、気になっていたようだ。

 ただ、結局のところ、バニャイアは土曜日の午前中のフリープラクティス2、そしてもちろん予選Q2でもフロントのハードタイヤを試すことなく、15時スタートのスプリントレースを迎えていたのだ。

 ミシュランによると、ポールポジションのバニャイアは当初、フロントにミディアムを選んでいた。しかし、その後、ミシュランから訂正のインフォメーションが届く。それによると、バニャイアは「フロントをアシンメトリーのハードに変更した」という。

 つまり、バニャイアはそれまでのセッションで一度も使っていないハードタイヤを使ってレースに臨んだことになる。繰り返すが、このレースではマルティンのチャンピオン獲得がかかっていた。バニャイアは、絶対にマルティンの前でゴールしなければならないという重要な場面だったのだ。対するマルティンは、フロントにミディアム、リアにソフトという選択だった。

 結果的に、バニャイアの選択は奏功したのか?

 バニャイアとマルティンのスプリントレース全12周のラップタイムを確認すると、レース前半ではバニャイアの方が速い。おそらく、バニャイアがすでにトップに立って2番手との差を築き始めていたのに対し、マルティンはエネア・バスティアニーニ(ドゥカティ・レノボ・チーム)とのバトルを展開していたことも影響しているだろう。

 レース後半に入ると、二人のラップタイムは1分40秒台に入り、ほぼ変わらない。マルティンと同様にフロントにミディアムを選んでいたバスティアニーニのラップタイムを見ると、バニャイアよりもやや速い。

 総合的に見て、「バニャイアがスタート直前に変更したフロントのハードタイヤが、バニャイアの優勝に大きく貢献した」と断言するのは難しいかもしれない。

 ただ、一つ言えることは、バニャイアがこのように重要な場面で思い切った決断を下せる状況・状態にある、ということではないだろうか。

 2022年、2023年と2年連続で最終戦でチャンピオンを手にしてきたバニャイアは、レース後の囲み取材でこう語っている。

「トップに立ってから、ギャップを広げるのに十分なペースがあったんだ。楽しかったよ。攻めすぎることなく、同じギャップを築いていったから。全てがとてもうまくいっていた」

「明日はまた違うだろうね。リアタイヤを変更しなければならないだろうから。ソフトタイヤでは柔らかすぎる。最終ラップで問題になるだろう」

 一方のマルティンは、タイヤ選択についてナーバスになっていたという。というのも、バニャイアが「フロントにハードを選んだ」と知ったからだ。しかし、マルティンは「レースでベストなタイヤは何だろう?」と自問した。答えは「(リアは)ミディアム」。マルティンは自分を信じて、フロントにミディアム、リアにソフトを選んだ。

「予選後、食べるものもろくにのどを通らなかった」というほど、マルティンはナーバスになっていたという。

「今日は胃が『クローズ』しちゃってたんだ。そのときはすごくナーバスだったよ。でもそのあとに少し眠って、冷たい水を飲んだりしたら、レースでは少し落ち着いたんだ」

「いつもと同じことをする、というのがプランだった。明日も同じようにするつもりだよ。全力を尽くして、必要ならマネジメントするし、そうじゃなければプッシュするだろう。状況次第だね」

 マルティンは決勝レースのタイヤ選択について「全員が同じようにすると思う。だから、ライバルをコピーするだけでいい」と語っていた。

 このスプリントレースで、マルティンも「チャンピオン獲得がかかるレース」の経験を一つ、積んだことになる。二人のポイント差は19ポイント。マルティンは日曜日の決勝レースを9位以上でゴールすれば、チャンピオンが決まる。

ホルヘ・マルティン©Eri Ito