その落ち着きぶりには、頼もしさが漂っている。
小椋藍(MTヘルメット – MSI)は、ランキング2番手のアロン・カネト(ファンティック・レーシング)に65ポイントの差をつけてタイGPに乗り込んでいた。決勝レースで5位以内を獲得すれば、チャンピオンが決定する。タイトル獲得に王手をかけた状態である。
金曜日、午前中のフリープラクティスと午後のプラクティス1のセッション前、ピットでは小椋がクルーチーフのノーマン・ランクや他のクルーと何事かを話し、時折笑顔を見せていた。少なくとも外から見る限りでは、小椋がナーバスになっている様子は見受けられなかった。そして、ピットの雰囲気もまた、セッション前の緊張感をはらみながら、やはりいい意味でぴりぴりとしすぎていない空気のように見えた。
「(笑顔が見えたというのは)チームスタッフと何か面白いことを話したりしたときのことだと思うんですけど、でも、チームもリラックスしている感じも伝わってきますし、みんな、いい感じでマネジメントできているんじゃないかなと思います」と、小椋は言う。いい意味で肩に力が入りすぎず、しかしモチベーションが高い、そんな状態だと。
この日、じつは小椋は午前中のフリープラクティスで、ピットレーンクローズの直後、赤旗が出ているにもかかわらずコースインする「ミス」を犯した。これについては500ユーロの罰金が科されている。また、午後のプラクティス1では、エンジントラブルが発生した(本人は「エンジンがおかしい感じだった」と表現している)。
少しばかり、いつもとは違う「トラブル」があったわけだが、レース後に話を聞いた小椋には、やはり浮足立ったような様子はなかった。
週末のアプローチも、いつもと大きくは変わらないという。
土曜日はエンジンを載せ替え、午前中のプラクティス2でオールタイム・ラップ・レコードを更新する1分34秒595を記録してトップで終えた。そして予選では最初のコースインでトップタイムをマークして、そのまま今季2度目のポールポジションを獲得した。
後半の時間帯は小椋の後ろにつきたいライダーが多くいてアタックしきれなかったため、小椋としては不完全燃焼だったという。チャン・インターナショナル・サーキットはスリップストリームが利くサーキットで、誰かの後ろにつこうとするライダーが多かったのだ。
チャンピオンがかかるレースの予選であろうと、小椋が自分のスタンスを崩すことはなかった。「(周りは)アタックをやめてはまた(アタックに)行くふりをして、またやめていた。僕はそんなことしに来ているわけじゃないから」と、言い切っていた。
「今回(のターゲット)は……、表彰台です」と、小椋は言う。それはきっと、いつも通り、自分のレースをした先にあるものなのだろう。そして、もっと大きな称号も、また。