MotoGP最終戦バレンシアGPの二日後の11月18日(火)に行われた、公式テストの模様をお伝えする。今回お届けするのは、トプラク・ラズガットリオグルだ。
ピットで見せたラズガットリオグルの気遣い
トプラク・ラズガットリオグルのバレンシア公式テストについては、プリマ・プラマック・ヤマハMotoGPのチーム・ディレクター、ジーノ・ボルソイの話をご紹介したい。
ラズガットリオグル本人の話をお伝えしたいところだが、バレンシア公式テスト後はまだラズガットリオグルの囲み取材が行われない状況だったのである。
スーパーバイク世界選手権(SBK)で3度のチャンピオンに輝いたラズガットリオグル。2021年にヤマハで、そして2024年と今季2025年はBMWで2連覇を達成している。そのポテンシャルは疑いようがないが、近年、MotoGPからSBKにステージを変えるライダーは多くいても、その逆はほとんどいなかった。
2024年、SBKエミリア・ロマーニャラウンドが開催されたミサノで、ラズガットリオグルにインタビューしたときのことを、よく覚えている。筆者が「今年(2024年)の目標はチャンピオン獲得だと思いますが、将来の目標は?」と尋ねたとき、ラズガットリオグルはきっぱりと答えた。
「今後(の目標)は、MotoGPだ」
「このミッション(BMWでチャンピオンを獲得すること)を完了したら、MotoGPについて考えている。成功するのかはわからない。MotoGPはまったく違うバイクだし、タイヤも違う。なにもかもが違っているからね」
「でも、僕はそこにトライする必要があるんだ」
その答え方に、迷いはなかった。じっとこちらを見るラズガットリオグルの眼には、決意がこもっていた。それは、近い未来の実現を予感させる種類のものだった。
当時のラズガットリオグルの状況がどんなものだったのか、筆者が取材した範囲ではわからない。ただ、6月11日に「2026年からラズガットリオグルがMotoGPに参戦する」との発表を聞いたとき、真っ先にこのときのラズガットリオグルが脳裏に浮かんだのである。
──そして2025年11月18日、ラズガットリオグルはMotoGPライダーとして、プリマ・プラマック・ヤマハMotoGPのピットにいる。
ボルソイがラズガットリオグルについて語った話を紹介する前に、当日の様子をお伝えしたい。
バレンシア公式テスト当日は、前日の夕方に降った雷雨によってウエットパッチが残り、走行は午後に始まった。ライダーが待機していた午前中、サーキットのメディアセンターのテレビにはピットレーンやパドック、ピット内のライダーたちの様子が映し出されていた。
カメラがラズガットリオグルのピットを映していたとき、ラズガットリオグルが平たい箱を取り出した。どうやら、中身はお菓子らしい。ラズガットリオグルはチームのメンバー一人一人に、自らお菓子を勧めていた。
モータースポーツはチームスポーツだ。今季、日本GPで7度目のチャンピオンに輝いたマルク・マルケスが、チームを大事にしているのは有名な話である。以前、マルケスがこう言ったことがある。「チームにいるすべての人間が重要だ。一人では何もできない」。
ラズガットリオグルもまた、SBKで3度のチャンピオンを獲得したライダーだ。チームがいかに重要な存在なのかを、よくわかっているだろう。もちろん、チームとの関係性の築き方は人それぞれだろうけれど、ラズガットリオグルがお菓子を配っていたその場面は、「プリマ・プラマック・ヤマハMotoGP」に溶け込もうと努力する心が見えた時間だった。

タイヤの違いとライディングスタイル
さて、それではボルソイが語ったラズガットリオグルのバレンシア公式テストについてお伝えしよう。
この日、ラズガットリオグルはV4エンジンのマシンで走行し、53周した。ベストタイムは1分30秒667で、17番手。トップのラウル・フェルナンデスからは1.294秒差で、ヤマハの最上位、15番手のファビオ・クアルタラロとは0.74秒だった。
「トプラクの取り組み方とライディングスタイルには、かなり驚かされましたし、印象的でもありました」と、ボルソイはテスト後の囲み取材で語った。通常、チーム・ディレクターなどの囲み取材は行われないので、ラズガットリオグル本人が対応できない代わりにボルソイの囲み取材がセッティングされた、と言っていいだろう。
「彼がブレーキングで信じられないほどの才能を持っていることは、誰もが知るところです。しかし、今日、彼はライディングスタイルを本当に短い時間で変えられることを証明しました。いくつかちょっとしたアドバイスをすると、彼は本当に、本当にすぐ吸収するんです」
「それに、彼は本当にフレンドリーで、話しやすいんです。今のところ私にとっては、ディスカッションしたり、意見を交換したりするのが難しくはありません。正直言って、その点にも驚いています。文化として、私たち(ボルソイはイタリア人)は彼(ラズガットリオグルはトルコ人)とかなり違うのですが、長い付き合いの友人のように感じられるんです」
特に注目だったのは、タイヤによるライディングスタイルの変更だ。SBKに供給されているのはピレリだが、MotoGPではミシュランである。
ポルトガルGPとバレンシアGPにマルク・マルケスの代役として、ドゥカティ・レノボ・チームから参戦したニコロ・ブレガ(2025年シーズンSBKランキング2位)は、タイヤの違いについてこう説明していた。
「(ミシュランの)フロントタイヤの特性がピレリとは全然違うから、ブレーキング時のライディングスタイルをかなり変えなきゃいけないんだ」
「走り始めてすぐに、フロントがけっこうロックする感触があった。ブレーキングのときに、ときどきフロントを失うような感覚があってね。だから、その部分ではライディングスタイルをかなり変えなきゃいけない」
「SBKではブレーキングの最初の区間で思いきりアグレッシブにいって、最初の数メートルでバイクを止めなきゃいけない。でも、MotoGPでは逆なんだ。ブレーキングの最初の部分はスムーズに入って、そこからじわっとブレーキレバーを引いていく必要がある。それがいちばん難しいところだね。トプラクもこの部分は少し変えなきゃいけないと思う。ヤマハでどうかはわからないけど、フロントタイヤの特性が違うからね」
なお、「フロントがロックする感触」というのは、シーズン開幕前のセパンテストで、小椋藍も言及していたところだった。ブレガの話を踏まえ、小椋にバレンシアGPで確認した。小椋の説明はこうだ。
「ブレーキング中にフロントがちょっとずつ“クッ”ってロックして進んで、ロックして進んで……というくらいのブレーキングをしないと、いい減速度が出せないんですね。なので、『その感覚が普通だ』と感じられるようにならないといけないんでしょうね」
ラズガットリオグルの話に戻ろう。ラズガットリオグルのライディングスタイルは、ハードブレーキングである。だから、ボルソイもラズガットリオグルに「強くブレーキングしないで、フロントタイヤの理解に努めてください」と、何度も伝えたそうだ。だが、それは杞憂だった。
「彼はすぐに理解して、素早く適応しました。彼は、どのラップでも攻めなかったんです。これはいいことですよね。彼のキャラクターや取り組み方が機能しているのがわかったからです。そして、それはすでにMotoGPのスタイルに合ってきているんです」
また、クアルタラロはラズガットリオグルについて、「今日の彼の速さにはとても驚いた。来季、予想していたよりもいいところにいくと思う」と述べていた。
SBKで頂点に上り詰めたラズガットリオグルが、MotoGPをどう戦うのか。ラズガットリオグルに直接取材ができるのは、2026年2月のセパン公式テストだ。そのときを楽しみに待ちたい。

◆関連記事:
ギャラリー&ノート|2026年始動。バレンシアテストを写真で追う



























